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臨床研究内容

大腸SM癌に対する内視鏡治療の適応拡大

当センターでは2001年4月開院以降、2012年6月までの間に781例の大腸SM癌が集積された。追加腸切除を含む外科的切除例が514例、うちリンパ節転移を認めたのは50例であった。SM微小浸潤癌は内視鏡的切除、SM深部浸潤癌は外科的切除が原則であるがリンパ節転移の頻度は約10%に留まる。内視鏡的切除のみで根治され得る症例も多数存在し、結果的にover surgeryとなる症例を減らすことは臨床的に重要である。

2010年版の「大腸癌治療ガイドライン」では内視鏡的摘除後のSM癌に対しリンパ節郭清を伴う追加腸切除を考慮する基準として、SM浸潤度≧1000μm、脈管侵襲陽性、簇出G2/3、低分化腺癌・印環細胞癌・粘液癌の4因子が挙げられている。これらがSM癌治療の発展に寄与していることは明らかだが、未解決の問題も残されており必要十分とは言い難い。SM癌に対し過不足のない治療を目指す上での問題点は、【1】病理学的因子の判定基準の標準化、【2】over surgeryを減じるためのリンパ節転移リスクの層別化、【3】経過観察症例における再発の実態把握、の3点に集約されると考える。

以前よりSM浸潤距離を計測する基準線の判断は容易ではなく、病理医によって異なり客観性に欠けるという問題点が指摘されてきた。筋板の推定が可能か否かの判断、どこからどのように測定するかは、その後の治療方針に決定的な影響を及ぼす。当センターでは病変表層から測定すると判定された病変は全例で1000μm以上、即ち「追加腸切除を考慮する」病変であった。しかし測定方法は消化管を専門とする病理医の間でさえしばしば意見が分かれることがある。

脈管侵襲陽性、低分化胞巣、先進部muc/por、簇出G2/3は、当センターの検討にてリンパ節転移に有意な相関を認めた因子である。一方で閾値1000μmはリンパ節転移の有意なリスク因子ではなかった。また、浸潤距離1000μm以上は、脈管侵襲・簇出の出現に相関を認めるが、浸潤距離が深くなるにつれてリンパ節転移が有意に増加する傾向は認めていない。このことより垂直方向よりもむしろ水平方向の浸潤の評価が重要であると考えている。

我々は以前より粘膜筋板の状態に注目しており、粘膜筋板の消失はリンパ節転移のリスク因子であると考えている。当センターでは粘膜筋板が保持されている症例においてリンパ節転移を認めていない。現在のところ、粘膜筋板の状態に加え脈管侵襲、簇出、先進部組織型、低分化胞巣の因子を組み合わせてリンパ節転移のリスクを層別化することが有効であると考えている。

 2012年はUEGWで宮地、松平が、APDWで岡がOral Presentationに選ばれた。工藤教授の指導のもとSM癌の研究を続け、その成果がこのような形で出たことは大変喜ばしい。今後もこれまでの研究テーマをさらに深く追究するとともに、追加腸切除を行わなかった経過観察例における再発・予後の検討にも取り組む。さらにSM癌の研究に類似したMP癌の研究にも取り組みを始めている。我々北部病院消化器センターが先頭に立ち、新しい知見を提唱するという自負を持って研究を続けいきたい。

(一政 克朗・宮地 英行)